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かご
加護
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《加護(かご)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 頁
お恵さんは、背を向けた往来を、威勢よくガラガラと転って行く、牛乳屋の空車の音も聞かなかった。目の前に、顔を刺しそうに突出ている、尖った枳殼(からたち)の垣根も見なかった。
ただ、時を切り、厭な寒気と、いくら口をあぷあぷさせても吐き切れない息の苦しさばかりが、体を震わせる。彼女は、薄すり閉じた瞼の下で、顫える寒天のような灰色の空間を見た。下から上へ、下から上へと、無数に真青な焔が立って行く。
お恵さんが、常願寺の裏から、吊台で運び返されたという急使を受けた時、お幾の愕(おどろ)きは、想像も許さないものがあった。
結いかけていた髪もまとめず、くるくる巻のまま、体中で震えながら彼女が馳けつけた時、迎えたお恵さんは、もう、
「よくいらしって下さいましたね」
と云って微笑む、今朝までの彼女ではなかった。
冷たく堅くなった、一人の淋しそうな婦人の遺骸が、落付き悪く、三年前、良人が横わったと同じ場所に臥っているのである。
唇迄蒼白くなり、お幾は、口も利けなかった。
部屋には、偶然通り合わせて、人だかりのした行路病者が、お恵さんであるのを見つけたという、矢張り、同じ信心仲間の年寄がいた。