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きたへかしがったいえ
北へ傾がった家
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《北へ傾がった家(きたへかしがったいえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,573 字 · 4 頁
ひだりまえになったら売っとばして間借をすればいい、などと豪快に割り切っている向もあるというが、私の少年時代には相場師といわれる人たちがそんなふうな生活をしていたようである。こんなことをいうとおべっかを使うと思われるかもしれないが、私としては文筆家にだってそのくらい豪快な士が出てきたんだといいたいだけである。
年末になると思いだすのだが、十数年まえの十二月三十日に、尾崎士郎さんがわざわざやって来られて「少ないが君これを使ってくれたまえ」といって小切手をくれた。額面三百七十五円八十銭という小切手である。振出人は尾崎士郎五郎とかなんとか書いてあったようだ。そんなはずは絶対にあり得ないので悪ふざけだということはすぐにわかったが、それでも胸のところがどきどきしたことはたしかであった。士郎さんは「十年たったら額面だけの金を君にやる」といばっていた。それからついでにいうが黒糸おどしのよろいも「必ず」くれる約束であった。
一般に帳面が利くようになったので、今年の暮は昔のように勘定取が押掛けて来るもようである。帳面の利かないのも困るが利くのも困るというのはおかしなものではないか。