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オチフルイかいじゅうろうてがらばなし
十二神貝十郎手柄話
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《十二神貝十郎手柄話(オチフルイかいじゅうろうてがらばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,035 字 · 254 頁
(しまった!)――で京一郎は逃げた。ここは京橋の一画で、本通りから離れた小路であった。両親に内証で町道場へ通い、一刀流の稽古をしていたが、いつもより今日は遅くなったので、道を急いでの帰るさであった。
背後から追っかけて来るらしい。京一郎は横へ逸れた。と、運悪く袋露路で、妾宅めいた家によって、見れば行く手をふさがれている。
(どうしたものだ! これは困ったぞ!)――で、当惑して立ち止まったとたんに、眼の前の格子戸が内から開き、
「とんだ事ねえ、さあいらっしゃい」艶めいた女の声がして、つづいて白い手が伸びて来た。
「いえ、私は……」
「大丈夫なのよ」
ガラガラと京一郎の背のうしろで、閉ざされる格子戸の音のした時には、京一郎の体は家の中にあった。
見失ったというように、無頼漢風の男をまじえ、五人の男が露路から出た。本通りの方へ引っかえして行くのを、一軒の家の二階から――細目に開けた障子の隙から、眺めていた一人の武士があったが、
「また彼奴ら悪いことをやり出したな」
眉をひそめながら呟いた。与力の十二神貝十郎であった。
「旦那、喧嘩ね。気味の悪い」
ちゃぶ台があってご馳走があって、徳利と盃とが置いてあり、一方の側には貝十郎がおり、一方の側には女がいたが、その女がそんなように云った。