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はんしちとりものちょう
半七捕物帳
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《半七捕物帳(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,788 字 · 15 頁
きょうは朝から薄く陰って、あしたの名月をあやぶませるような空模様であったが、午後からの雲は色がいよいよ暗くなって、今にも小雨がほろほろと落ちて来そうにもみえた。旧暦の八月なかばで、朝夕はめっきりと涼しくなったが、きょうは袂涼しいのを通り越して、単衣の襟が薄ら寒いほど冷たい風がながれて来た。天竜寺の暮れ六ツをきいて喜右衛門は夕飯をくっていると、昼間の草履取りが再び野島屋の店さきに立った。
「あの辺はさびしいところではあり、路が暗い。屋敷をさがすのに難儀であろうから、おまえが行って案内してやれと殿様が仰しゃった。支度がよければすぐに来てください」
「それは御苦労でござります」
案内者が来てくれたので、喜右衛門はよろこんだ。早々に飯をくってしまって、かのうずら籠をかかえて店を出ると、表はもう暗かった。草履取りの中間と話しながら新宿の方へ急いでゆくうちに、細かい雨がふたりの額のうえに冷たく落ちて来た。
「とうとう降って来た」と、中間は舌打ちした。
「あしたもどうでしょうかな」
こんな話をしながら、ふたりは足を早めてゆくと、やがて新屋敷にたどり着いた。小雨の降る秋の宵で、さびしい屋敷町は灯のひかりも見えない闇の底に沈んでいた。