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なんちしんじゅう

南地心中

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《南地心中(なんちしんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 39,205 字 · 79 頁

青空文庫

お珊も暮るれば練るという、宝の市の夜をかけた、大阪中の賑いである。

十五

「御覧なさい、これが亀の池です。」

と云う、男衆の目は、――ここに人を渡すために架けたと云うより、築山の景色に刻んだような、天満宮の境内を左へ入って、池を渡る橋の上で――池は視ないで、向う岸へ外れた。

階を昇って跪いた時、言い知らぬ神霊に、引緊った身の、拍手も堅く附着たのが、このところまで退出て、やっと掌の開くを覚えながら、岸に、そのお珊の彳んだのを見たのであった。

麩でも投げたか、奴と二人で、同じ状に洋傘を傾けて、熟と池の面を見入っている。

初阪は、不思議な物語に伝える類の、同じ百里の旅人である。天満の橋を渡る時、ふとどこともなく立顕れた、世にも凄いまで美しい婦の手から、一通玉章を秘めた文箱を託って来て、ここなる池で、かつて暗示された、別な美人が受取りに出たような気がしてならぬ。

しかもそれは、途中互にもの言うにさえ、声の疲れた……激しい人の波を泳いで来た、殷賑、心斎橋、高麗橋と相並ぶ、天満の町筋を徹してであるにもかかわらず、説き難き一種寂寞の感が身に迫った。参詣群集、隙間のない、宮、社の、フトした空地は、こうした水ある処に、思いかけぬ寂しさを、日中は分けて見る事がおりおりある。