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こちや

古千屋

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《古千屋(こちや)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,883 字 · 6 頁

青空文庫

」

家康は初めて微笑した。人生は彼には東海道の地図のように明かだった。家康は古千屋の狂乱の中にもいつか人生の彼に教えた、何ごとにも表裏のあるという事実を感じない訣には行かなかった。この推測は今度も七十歳を越した彼の経験に合していた。……

「さもあろう。」

「あの女はいかがいたしましょう?」

「善いわ、やはり召使っておけ。」

直孝はやや苛立たしげだった。

「けれども上を欺きました罪は……」

家康はしばらくだまっていた。が、彼の心の目は人生の底にある闇黒に――そのまた闇黒の中にいるいろいろの怪物に向っていた。

「わたくしの一存にとり計らいましても、よろしいものでございましょうか?」

「うむ、上を欺いた……」

それは実際直孝には疑う余地などのないことだった。しかし家康はいつの間にか人一倍大きい目をしたまま、何か敵勢にでも向い合ったようにこう堂々と返事をした。――

「いや、おれは欺かれはせぬ。」

(昭和二年五月七日)