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きらこうずけのたちば

吉良上野の立場

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《吉良上野の立場(きらこうずけのたちば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,369 字 · 24 頁

青空文庫

「この中が怪しいぞ」と、叫んだ。そして、もう一度槍を構えて、

「出ろ!」と、叫んでじりじりとはいって来た。用人は、炭を、薪を、投げつけたが、用人の後の白衣を着た上野の姿を見つけると、

「ええい!」と、叫んで、突きかけて来た。上野は、後へ下ろうとして、荒壁へ、どんと背をぶっつけたとたん、太股をつかれて尻餅をついた。

(何の罪があって、わしは殺されるのだ。どこに、物の正不正があるのだ。わしは、殺された上に、永劫悪人にされてしまうのだ。わしの言い分やわしの立場は、敵討という大鳴物入りの道徳のために、ふみにじられてしまうのだ)

上野は、炭を掴んで投げつけた。用人が、槍を持っている男の側を兎のようにくぐって、外へ出たとたん、雪の上に黒い影が現れて、掛け声がかかると、用人はよろめいて手を突いた。

「この中が、怪しいのか」

もう一人の男が、ずかずかとはいって来て、上野の着物の白いのを見当に、

「参るぞ!」と、刀を振り上げた。

「大石がいるか」上野がきいた。

「誰だ! 貴公は」

「大石がいたら……」

「いなさる」

上野は、

(大石がいたら、この筋の立たない敵討を詰じってやろう)と、思いながら、立ち上ろうとして、よろめいた。