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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《名人地獄(めいじんじごく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 頁
で、彼は文字通り、恋の奴隷となり下がってしまった。
やがて初冬がおとずれて来た。岸に打つ浪が音を高め、沖から吹いて来る潮風が、肌を刺すように寒くなった。銚子港の寂れる季節が、だんだん近寄って来たのであった。
敵は襲って来なかった。で別荘は平和であった。無為の日がドンドンたって行った。
とはいえその間怪しいことが、全然なかったとはいわれなかった。ある朝、どこから投げ込んだものか、一通の手紙が東側の、出邸の畔に落ちていた。書かれた文字は簡単で、「図面を渡せ」とあるばかりであった。でもちろん銀之丞には、なんのことだかわからなかった。だがしかし九郎右衛門には、恐らくその意味がわかったのであろう、さっとばかりに顔色を変えた。それから数日たった時、またも手紙が投げ込まれた。「鍵を渡せ」というのであった。
「いよいよ敵が逼って来た。警戒警戒、警戒しなければならない」
九郎右衛門はこういった。しかしその後は変ったこともなく、またも無為に日が経った。と、またもや一通の手紙が邸の内に落ちていた。
「観世銀之丞よ。早く立ち去れ」
こうその手紙には書いてあった。
これには銀之丞も仰天したが、しかし恐れはしなかった。