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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《名人地獄(めいじんじごく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 頁

青空文庫

関所越えれば旅の空

「あなた!」と女房は取り縋った。

「うむ」といったが、耳を澄ました。

「あの唄声でございます!」

「いやいやあれは……人間の声だ!」

「甚三の声でございます!」

「そっくりそのまま……いや異う!」

「亡魂の声でございます!」

「待て待て! しかし似ているなア」

碓井峠の権現さまよ……

だんだんこっちへ近寄って来た。

わしがためには守り神

もう門口へ来たらしい。

浪人は刀をツト握った。そっと立つと夜具を離れ、足を刻むと戸口へ寄った。

追分、油屋、掛け行燈に

聞き澄まして置いて浪人は、そろそろと雨戸へ手をかけた。

浮気ごめんと書いちゃない

「うん」というとひっ外した。抜き打ちの一文字、横へ払った気合いと共に、跣足で飛び下りた雪の中、ヒヤリと寒さは感じたが、眼に遮る物影もない。

忽然響き渡る鼓の音

今年の最初の雪だというに、江戸に珍らしく五寸も積もり、藪も耕地も白一色、その雪明りに照らされて、遠方朦朧と見渡されたが、命ある何物をも見られなかった。

行燈の灯が消えようとした。

その向こう側に物影があった。

「誰!」

といいながら隙かして見たが、もちろん誰もいなかった。