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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《名人地獄(めいじんじごく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 頁

青空文庫

行く所行く所で鼓が鳴る! ここは銚子だ江戸ではない! ……」彼には起きる元気もなかった。

と、この時、もう一つ、驚くべきことが行われた。石壁へ縞が出来たのであった。それは一筋の光の縞で、だんだん巾が広くなった。そうしてそこから一道の光が、廊下の方へ射し出でた。そうしてそれがうずくまっている、平八の背中を明るくした。と、その石壁の明るみへ、短い棒切れが浮き出した。つづいて人の手が現われた。それから半身が現われた。種子ヶ島を握った一人の子供が――子供のような片輪者が――すなわち赤格子の腹心の、醜い兇悪な丑松が、秘密の扉を窃かにあけて、様子をうかがっているのであった。

顔を蔽い、背中を向け、うずくまっている平八には、光の縞も丑松も、見て取ることが出来なかった。……種子ヶ島の筒口が、ジリジリと下へ下がって来た。そうして一点にとどまった。その筒口の一間先に、平八の背中が静止していた。今、丑松の母指が、引き金をゆるゆると締め出した。

この時和泉屋次郎吉は、南側の廊下に立っていた。彼は愉快でたまらなかった。彼は相手の人間が、平八であるとは知らなかった。彼と同じ稼ぎ人が、彼と同じ目的のもとに、忍び込んでいるものと推量した。