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しじゅうねんまえのエキスカージョン

四十年前のエキスカージョン

和辻 哲郎

線上閱讀和辻 哲郎《四十年前のエキスカージョン(しじゅうねんまえのエキスカージョン)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,026 字 · 7 頁

青空文庫

という状態になる。そういう見物は全然むだである。

その点を考えると、一日のうちにあまり方々へ回ることは考えものである。なるべく徒歩を混じえて、ゆっくり時間をかけて、それで見て回れる程度に限る方が、自分の感受能力を活発に働かせるゆえんとなるであろう。

そういうことを考えていると、わたくしは四十何年か前のエキスカージョンをなつかしく思い出してくる。それは東京大学の文学部の美術史学科の学生や卒業生たちの修学旅行なのであるが、その当時から修学旅行とは呼ばず、エキスカージョンと呼んでいた。三月の末から四月の初めへかけて、四五日の間に京都と奈良とを見学するのである。これは大正になってから始まったので、わたくしの在学中にはなかった。わたくしが学生として聞いた美術史の講義は、関野貞先生の日本建築史、岡倉覚三先生の泰東巧芸史、滝精一先生の日本絵画史などであったが、その時は滝先生は講師であって教授ではなかった。わたくしが大学を卒業した後、大正元年か二年かに教授になられたのである。エキスカージョンが始まったのはその後であろう。それがいかにも楽しそうであったし、またわたくしにはまだ見ないものが多かったので、たぶん大正の五年か六年のころに、滝先生に頼んで参加させてもらったのであった。