輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
線上閱讀原 民喜《夏の花・心願の国(なつのはな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,816 字 · 310 頁
人通りの少ない、こぢんまりした路は静かな光線のなかにあった。煉瓦塀や小さな溝川や楓の樹などが落着いた陰翳をもって、それは彼の記憶に残っている昔の郷里の街と似かよってきた。
ほとんど総ての物から 感受への合図が来る。
向きを変える毎に 追憶を吹き起す風が来る。
何気なく見逃がして過ぎた一日が
やがて自分へのはっきりとした贈りものに成って蘇る。
いつも頭に浮ぶリルケの詩の一節を繰返していた。
その春、その街の大学病院を退院して以来、自宅で養生をつづけるようになってからも、妻の容態はおもわしくなかった。夜ひどい咳の発作におそわれたり、衰弱は目に見えて著しかった。だが、彼の目には妻の「死」がどうしても、はっきりと目に見えて迫っては来なかった。その部屋一杯にこもっている病人の雰囲気も、どうかすると彼には馴れて安らかな空気のようにおもえた。と、夏が急に衰えて、秋の気配のただよう日がやって来た。その日、彼女の母親は東京へ用足しに出掛けて行ったので、家の中は久しぶりに彼と妻の二人きりになっていた。
寝たままで動けない姿勢で、妻は彼の方を見上げた。と、彼もまた寝たままで動けない姿勢で、何ものかを見上げているような心持がするのだったが……。