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だいどうじしんすけのはんせい
大導寺信輔の半生
線上閱讀芥川 竜之介《大導寺信輔の半生(だいどうじしんすけのはんせい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,611 字 · 26 頁
を読み返した。のみならず本を開かぬ時にも替レ天行レ道の旗や景陽岡の大虎や菜園子張青の梁に吊った人間の腿を想像した。想像?――しかしその想像は現実よりも一層現実的だった。彼は又何度も木剣を提げ、干し菜をぶら下げた裏庭に「水滸伝」中の人物と、――一丈青扈三娘や花和尚魯智深と格闘した。この情熱は三十年間、絶えず彼を支配しつづけた。彼は度たび本を前に夜を徹したことを覚えている。いや、几上、車上、厠上、――時には路上にも熱心に本を読んだことを覚えている。木剣は勿論「水滸伝」以来二度と彼の手に取られなかった。が、彼は本の上に何度も笑ったり泣いたりした。それは言わば転身だった。本の中の人物に変ることだった。彼は天竺の仏のように無数の過去生を通り抜けた。イヴァン・カラマゾフを、ハムレットを、公爵アンドレエを、ドン・ジュアンを、メフィストフェレスを、ライネッケ狐を、――しかもそれ等の或ものは一時の転身には限らなかった。現に或晩秋の午後、彼は小遣いを貰う為に年とった叔父を訪問した。叔父は長州萩の人だった。彼はことさらに叔父の前に滔々と維新の大業を論じ、上は村田清風から下は山県有朋に至る長州の人材を讃嘆した。