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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《大捕物仙人壺(おおとりものせんにんつぼ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 頁

青空文庫

「なんの貴郎、勿体ない……」

紫錦と伊太郎は歩いて行った。

帰るというのを、送りましょうと云うので、連れ立って茶屋を出たのであった。左は湖水、右は榠櫨畑、その上に月が懸かっていた。諏訪因幡守三万石の城は、石垣高く湖水へ突き出し、その南手に聳えていた。城下の燈火は見えていたが、そのどよめきは聞えなかった。

穂麦の芳しい匂がした。蒼白い光を明滅させて、螢が行手を横切って飛んだが、月があんまり明るいので、その螢火は映えなかった。

「美しい晩、私は幸福だ」

「妾も楽しうござんすわ」

畦道は随分狭かった。肩と肩とを食っ付けなければ並んで歩くことが出来なかった。

いつともなしに寄り添っていた。

やがて湖水の入江へ出た。

「あら、舟がありますのね」

「私の所の舟なんですよ」

「ね、乗りましょうよ。妾漕げてよ」紫錦はせがむように云うのであった。「貴郎のお宅までお送りするわ」

それで二人は舟へ乗った。

湖上には微風が渡っていた。櫂で砕かれた波の穂が、鉛色に閃めいた。水禽が眼ざめて騒ぎ出した。

二人は嬉しく幸福であった。

「さあ来てよ、貴郎のお家へ」

そこで、二人は舟を出て、石の階段を登って行った。