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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 頁

青空文庫

その時分、林のあなたでは、またも男妾の浅吉が烈しく呼ぶ声、

「お内儀さん、どちらへおいでになりましたんですよ、一人歩きは危のうございますよ、お迎えに上りましたよ」

多分、二人の耳には、以前から、その金切声が再々入っているはずですけれども、あえて耳を傾けようとはしませんでしたが、

「お内儀さあ――ん」

そこで後家さんが小うるさくなって、

「気が違やしないか知ら、浅公――」

とつぶやきました。

しかし、その浅公も、もうかなり呼び疲れたと見えて、それからしばらく呼び声が絶えてしまいました。

「ねえ、先生、そういうわけですから、意気地なしほど思い込むと怖いかも知れませんよ。用心のために……殺しちゃいけませんよ、今のように殺さないで、殺しに来るのを避ける法を教えて下さいましな、あれを外す仕方を教えて下さいましな」

といって、もうケロリとして、今の苦しかった地獄の門を忘れてしまったようです。事実、或いは苦しかったのではないかも知れない。上手にしめられると苦しいと感ずるのは瞬間で、それから後は恍惚として、甘い世界に入るように息がとまってゆくそうな。こういう図々しい女は、再びその甘い死に方をして、また戻って来る気分を繰返してみたいのかも知れない。