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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠10(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 頁

青空文庫

「え、あの子が一人で無名沼へ……ほんとうですか?」

早くも顔の色をかえたものがあります。あの出来事以来、無名の沼を、魔の池のように恐れている者がある。

「そうして、無事に帰りましたか?」

「え、帰るには帰ったでしょう、さきほど、部屋で手紙を書いているのを見たという者がありますから……」

「それはまあ安心です……誰か様子を見に行って来ては……」

「そうですね……」

といったけれども、誰も急に立とうとする者はありません。まず立ち上るべきほどの人でも、お雪の占めている柳の間までは、長い廊下の、暗いところを伝い伝って、三階まで行かなければならぬおっくうさが、先に立ったものと見える。

また物にせつかない連中は、来る時には招かずとも来る人、来ないのは、何かさしさわりがあるのだろう、招きに行って、迷惑がらせるにも及ぶまい、という遠慮もあってのことらしい。

強いて呼び迎えて来なければならぬというほどのことはないが、お雪がいないため、この一座の淋しさは、他の何者でも埋められないと見えて、噂はやっぱりお雪のことのみに集まる。

「お雪ちゃんは、昨晩泣いていましたよ」

「え、泣いていましたか?」