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ぐじんのどく
大雷雨夜の殺人 他8編
小酒井 不木
線上閱讀小酒井 不木《大雷雨夜の殺人 他8編(ぐじんのどく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,456 字 · 55 頁
その証人は検事にとってはよほど重大な人であると見え、彼の顔面の筋肉がすこぶる緊張して見えた。ときどき頬のあたりがぴくりぴくりと波打つのも、おそらく気温上昇のためばかりではないであろう。訊問ということを一つの芸術と心得ている津村検事は、ちょうど芸術家が、その制作に着手するときのような昂奮を感じているらしいのである。これに反して、藤井署長は年齢のせいか、あるいはまた年齢と正比例をなす経験のせいか、いっこう昂奮した様子も見えず、ただその白い官服のみがいやにきらきらとしているだけである。まして、科学者である片田博士のでっぷりした顔には、いつもは愛嬌が漲っているに拘わらず、かような場所では底知れぬといってもよいような、沈着の不気味さが漂っているのであった。
柱時計が二時を報ずると、背広の夏服を着た青年紳士が一人の刑事に案内されて入ってきた。右の手に黒革の折鞄、俗にいわゆる往診鞄を携えているのは、言わずと知れたお医者さんである。人間の弱点を取り扱う商売であるだけに、探偵小説の中にまで“さん”の字をつけて呼ばれるのである。が、この人すこぶる現代的で、かような場所に馴れているのか、往診鞄を投げるようにして机の下に置き、いたって軽々しい態度で三人に挨拶をしたところを見ると、もう“さん”の字をつけることはやめにしたほうがよかろ