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「ダブックウ」ひょうりゅうき
「太平洋漏水孔」漂流記
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《「太平洋漏水孔」漂流記(「ダブックウ」ひょうりゅうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,264 字 · 37 頁
今では、日本のことも何もいわなくなったし、第一、こう云っている私がそうではないか。あれほど、自己批判の眼をむけて触れようともしなかったナエーアと、いまは動物の雌雄のようになっている。
一切が、もう忘却の彼方にあるのだ。
ところで、此処へ来て私は不思議な人間になった。おそらく私は、この地上における新生物かもしれない。というのは、いつも身体を倒して斜めに歩いているからだ。ちょうど、水平とは四十五度の角度で、私は斜めにかたむきながら歩いている。またそれが、この「太平洋漏水孔」の島での普通の歩きかたなのだ。では、一体なぜだろうか。
それは、この「太平洋漏水孔」では水平というものが、大漏斗の斜面しかないからだ。それに、いつもおなじ方向からひじょうな強風が吹いている。そのため、全島の樹木がなかば傾いて……その薙がれた角度が大漏斗の斜面と、ちょうど直角をなしているのだ。だから、そのあいだへ直立している私は、てっきり、なかば傾きながら歩いているとしか思えない。まったく、錯覚とはいえ自然天地の法則が、ここではものの見事に覆えされている。
これも、私がまったく痴愚になったためか、いや、決してそうではないだろう。