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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《奇談クラブ〔戦後版〕(きだんクラブ〔せんごばん〕)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 頁

青空文庫

「八千五百石六十二歳の大身に、進んで嫁入ったお綾殿だ、それが当然の成行かも知れぬ」

秋月九十郎は憮然としました。

「そこでもう一度言うが、此先貴公は何うするのだ」

「百姓になろうと思うが何うだ」

「それは良い覚悟だ――俺も実は内々そんな事を考えて居たよ」

二人は顔を見合せて、初めて隔てなく笑いを交しました。油然として胸に湧き上るのは、思いもよらぬ親しみの感情です。

「お綾殿――お綾殿のそれが最後の姿であったのか」

秋月九十郎は、自分のセンチメンタルな気持を反省して居ります。

「一と走り、柳橋へ行って、お綾殿の姿を見て来ては何うだ、――あの煎餅屋はまだ店を閉めては居まい」

「いや、無用だ、――俺の心の中に残る、昔のお綾殿のおもかげでたく山だ」

「――――」

「ところで一つ頼みがあるが、聴いてくれるか」

秋月九十郎は切出し難そうに言いました。

「何んだ」

「一と晩だけ、たった一と晩だけ、その枕を貸してくれぬか、――祖先の禁を破るようだが、せめて、一と晩だけ俺もその歓楽の夢が見度い」

「よかろう」

妻木右太之進は素直に応じました。そして斯う続けるのです。

「実は今晩限りで大川に投げ棄てる積りであったが、最後の晩を貴公に貸すのも面白かろう、精一杯楽しい夢を見るが宜い」