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ようば

妖婆

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《妖婆(ようば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,473 字 · 73 頁

青空文庫

麦藁帽子の庇をかすめて、蝶が二羽飛び過ぎました。烏羽揚羽と云うのでしょう。黒い翅の上に気味悪く、青い光沢がかかった蝶なのです。勿論その時は格別気にもしないで、二羽とも高い夕日の空へ、揉み上げられるようになって見えなくなるのを、ちらりと頭の上に仰ぎながら、折よく通りかかった上野行の電車へ飛び乗ってしまいましたが、さて須田町で乗換えて、国技館前で降りて見ると、またひらひらと麦藁帽子にまつわるのは、やはり二羽の黒い揚羽でした。が、まさか日本橋からここまで蝶が跡をつけて、来ようなどとは考えませんから、この時もやはり気にとめずに、約束の刻限にはまだ余裕もあろうと云うので、あれから一つ目の方へ曲る途中、看板に藪とある、小綺麗な蕎麦屋を一軒見つけて、仕度旁々はいったそうです。もっとも今日は謹んで、酒は一滴も口にせず、妙に胸が閊えるのを、やっと冷麦を一つ平げて、往来の日足が消えた時分、まるで人目を忍ぶ落人のように、こっそり暖簾から外へ出ました。するとその外へ出た所を、追いすがるごとくさっと来て、おやと思う鼻の先へ一文字に舞い上ったのは、今度も黒天鵞絨の翅の上に、青い粉を刷いたような、一対の烏羽揚羽なのです。