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いえ

家

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《家(いえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 頁

青空文庫

二月の末頃、正太は一度名古屋から上京したこともあった。その時は顔色も悪く、唯瘠我慢で押通しているような人であった。「旦那様は御自分じゃ、十年も生きるようなことを仰って被入っしゃいますが……どうして私の御見受申したところでは、二三年もむずかしゅう御座いますよ」と老婆は蔭で豊世に言った。二三日逗留した正太の身体からは、毎晩のように、激しい、冷い寝汗が流れた。まるで生命の油が尽きて行くかのように。それを豊世は海綿で拭き取ってやったことも有った。

その時の夫の言葉を、彼女は思出した。

「看護婦さん、足でも撫っておくれ……」

と夫は言ったが、それを玻璃障子のところで繰返してみた。彼女はまだ女の盛りであることを考えて、そこに立っていられないほど悲しく成った。

「老婆や、一寸御留守居を頼みますよ。三吉叔父さんの御宅まで行って来ますから」

と豊世が声を掛けたので、老婆は勝手の方から送りに出た。

「まあ、奥様の御服装は……意気なことは意気で御座いますが……おめかけさんか何ぞのようじゃ御座いませんか」

こう上り端のところに膝を突いている老婆の眼が言った。意気な細君らしく成った豊世の風俗は、昔気質の老婆には気に入らなかった。