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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第一巻(どんぐり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 頁
いよいよその日となって、母上と自分と二人で、車で出かけた。おりからの雨で車の中は窮屈であった。自分の住まっている町から一里半余、石ころの田舎道をゆられながらやっとねえさんの宅へ着いた。門の小流れの菖蒲も雨にしおれている。もうおおぜい客が来ていて母上は一人一人にねんごろに一別以来の辞儀をせられる。自分はその後ろに小さくなって手持ちぶさたでいると、おりよくここの俊ちゃんが出て来て、待ちかねていたというふうで自分を引っ張ってお池の鯉を見に行った。ねえさん所には池があっていいと子供心にうらやましく思うていた。池はちょっとした中庭にいっぱいになっていて、門の小川の水が表から床下をくぐってこの池へ通い裏田んぼへぬけるようにしてある。大きな鯉、緋鯉がたくさん飼ってあって、このごろの五月雨に増した濁り水に、おとなしく泳いでいると思うとおりおりすさまじい音を立ててはね上がる。池のまわりは岩組みになって、やせた巻柏、椶櫚竹などが少しあるばかり、そしてすみの平たい岩の上に大きな竜舌蘭の鉢が乗っている。ねえさんがこの家へ輿入れになった時、始めてこの鉢を見て珍しい草だと思ったが、今でも故郷の姉を思うたびにはきっとこの池の竜舌蘭を思い出す。