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ろうじゅうのめがね

小笠原壱岐守

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《小笠原壱岐守(ろうじゅうのめがね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,249 字 · 115 頁

青空文庫

不思議なことに平七は、まっすぐ土手を石原町の方へ下っていった。

「違うぞ。平七。吾妻橋を渡るんじゃ」

「そうでございますか……。こちらへいっては、お屋敷へまいられませんか」

「行って行かれないことはないが、半蔵門へかえるのに、本所なぞへいっては大廻りじゃ。吾妻橋へ引っ返せ」

「でも、馬がまいりますもんですから……」

「…………」

だまって、首をかしげていた有朋が、突然、洞穴のような声を出して、馬の上から笑った。

「なるほど、そうか。ハハハ……。さては、おまえ……」

「なにかおかしいことがあるんでございますか」

「あれに、お雪に参っておるな」

「わたしが! そうでございましょうかしら……。そんな筈はないんだが、いち度もそんなことを思ったことはないつもりですが……」

しかし、こないだの夕ぐれもそうだった。きょうはなおさらそうだった。なにか耳の底できこえているようなこころもちがして、その音を慕い乍ら、その音を慕い求めて、この道をやって来たのに間違いはないが――。

その音がなんであるか。

くらい耳の底へ、慕いさがしているその音が、リンリンリンと花簪の音になって湧きあがった。