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ろうじゅうのめがね

小笠原壱岐守

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《小笠原壱岐守(ろうじゅうのめがね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,249 字 · 115 頁

青空文庫

あれからもう何年ぐらいになるか、――やはりこんなような秋の初めだった。

場所も丁度、この橋の川上だった。久しく打ち絶えていた水馬の競技が、何年かぶりにまた催されることになって、平七もその催しに馳せ加わった。

いずれも二十から二十五六までの、同じような旗本公子ばかりだった。人心は、日ごとに渦巻く戦乱騒ぎの流言と不安に動揺していたが、しかし、まだまだ江戸の子女の胸には、長い伝統と教養が育てた旗本公子という名前が、ひそやかなあこがれとなっていたとみえて、その日も、宿下りに名を藉りてお城をぬけ出した奥女中たちが、三艘の舟に美しい顔を並べ、土手を埋めている見物の顔も、また、殆んどその大半が、若い女ばかりと言っていいほどだった。

騎は、三十六騎。

十二騎ずつひと組となって、平七はその第二組だった。

駒は、桜田の御厩から借りて来た葦毛だった。

葦毛には、この色が映えてよかろうという母のこころ遣いから、朱いろ、総塗り、無紋の竹胴をきっちりと胸につけて、下着も白の稽古襦袢、鉢巻も巾広の白綸子、袴も白の小倉袴、上も下もただひといろの白の中に、真紅の胴をくっきりと浮かせた平七が、さっと水しぶきを立て乍ら乗り入れたときは、岸の顔も、舟の中の顔も、打ちゆらぐばかりにどよめき立った。