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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《少将滋幹の母(しょうしょうしげもとのはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 頁

青空文庫

………滋幹はそんなことを考えながら、耳の奥がじーんとするような静かさの中になお暫く憩うていた。その間にも四辺の暗さと寂寥さとはひし/\と加わって来るのであったが、一度は母が住んでいた跡かと思えば、矢張直ぐには立ち去りかねるのであった。

と、その時、梟の啼く声に交って、微かにせゝらぎの音が聞えるようなので、その音をたよりに、彼は漸く身を起して遣り水の流れに沿いながら、池を廻り、築山を越え、植込みの間をくゞって行くと、果して崖に一条の滝が懸っていた。崖の高さは七八尺もあるであろうか、急な断崖ではなくて、なだらかな勾配のところ/″\に形の面白い石を配置し、落ちて来る水がそれらの間を屈曲しつゝ白泡立って流れるように作られてい、崖の上からは楓と松が参差と枝をさしかわしながら滝の面へ蔽いかぶさっているのであるが、蓋し此の滝は、さっきの音羽川の水を導いて来て、こゝへ堰き入れたのであろう。滋幹はそう心づくと、あの、「音羽川せき入れておとす」と云う伊勢の歌が胸に浮かんだ。なるほど、此の歌にある「滝つせ」は、此の流れを詠んだものであることは明かで、此の山荘が亡き中納言の別業の跡であることは、今は疑いを入れないのであった。