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やまのゆのたび

山の湯の旅

上村 松園

線上閱讀上村 松園《山の湯の旅(やまのゆのたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,782 字 · 4 頁

青空文庫

そういう人物でしたから、馬上の俄旅人の私も、お陰で退屈なしに山上の天狗の湯まで辿りつくことができました。私を乗せてくれた馬は、ひどく温順な馬でして、馬上初めての私も、何の危なげもなく悠然と乗っていたわけです。馬の背の鞍の両側に、旅人の納まる櫓が二つあって、片一方に一人ずつ、つまり二人が定法なのですが、乗るのが私一人なのですから、片一方にはいろいろの荷物を積んで、重さの平均をとったわけです。ゆらりゆらり揺られながら、信州の山路を登ってゆく気持ちは、なんとも言えませんでした。

○

山は、白樺の林です。なんとも言えない静かな上品さがあるもので、朝の気がその上に立ち罩めて、早晨の日の光が射しとおしてくる景色などは、言葉では言い切れない大きな詩味を投げかけてきます。ことにその木の間からは、六月だというのに、遠い山の雪の白さなどがちらと窺くやら、遅桜がほろほろ見える気持ちなどは、恐らく微妙な一幅の絵画で、私もその画の中の一つの添景であるような感じを湧かしました。

天狗の湯の宿は、山のほとんど巓に近いところで、やはり湯宿があります。そこへ着くと、とにかく寒いので私は早速薄綿のはいったドテラを借りまして、まず、座敷のまん中にごろりと横になり、そして肘枕です。