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さちおせんせいへのついおく
左千夫先生への追憶
石原 純
線上閱讀石原 純《左千夫先生への追憶(さちおせんせいへのついおく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,117 字 · 9 頁
歌会のときなど、席上の歌作に苦しんでいると、いつも先生は元気な声で、「そんなことではだめだ、僕はもう数首できたよ」と言っては、我々を励まされた。また私が大学で物理学を専攻していたので、先生はよく物質の分子とか電子とかラジウムとか、それから地球や天体のことなどを、非常な興味をもって私に尋ねられるのであった。そしてそれらのふしぎな現象をいろいろと心に描きながら、自然の幽幻なありさまや、人間の知識の究極するところの深さに感嘆しておられた。これらのことは、一面には先生が近代教育を受けない素朴な性質をもっておられたことにもよるが、それでありながら先生が熱心にこのような知識を解しようとせられたところに、実に若々しい進取的な気質を私は観取しないわけにはゆかないのであった。
自然に対する驚異、それは本当に敬虔な心から生まれる。なまなかの学問をしたものはかえってそういう心を失って、自分の浅薄な知識にたよりたがるのである。先生にはそういうことが絶対になかったので、最も深く自然を愛し、これを讃美せられた。明治四十三年五月にかの有名なハリー彗星が太陽に近づき、遠くその尾をひいて、それがわが地球にも触れると言われたとき、先生はちょうどその折りにできあがった茶室唯真閣に我々を待って、このまれな日の感慨を深められた。