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パリさい

巴里祭

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《巴里祭(パリさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,324 字 · 60 頁

青空文庫

」

彼は終りを独言にして溜息をして訣れて行った。

そういうこともあったので、ゆうべ新吉は折角の自分の巴里祭を夫人に乱されることを恐れて、どうして夫人を出し抜いたものかと、うと/\考えながら寝た。家へ帰らずにしまえばそれまでだが、それもなんだか卑怯に思えるし、夫人に気づかれて後の祟りも恐ろしかった。出来ることなら男らしくきっぱりと断って、あすの朝は一人で自分の家を出て行きたいものだと考え定めながら、いつか眠りに陥ったのであった。だが、段々部屋中を華やかに照らしだす日の光を眺めるとカテリイヌも、リサの送る娘も、ベッシェール夫人も全べて、そんな事はどうでもよくなって来た。たゞ早く町の割栗石の鋪道に固いイギリス製の靴の踵を踏み立てゝ西へ東へ歩き廻りたい願いだけがつき上げて来た。

顔を洗って着物を着代えているとどこからともなく古風で派手なワルツが凪いだ空気へ沖の浪のなごりのように、うねりを伝えて来る。後からそれを突除けて、ジャズが騒狂な渦の爆発の響を送る。祭は始まった。表通りを大人連のおしゃべりの声。子供達の駆けて行く足音。

白い帽子を手に取って姿鏡の前に立って自分の映像に上機嫌に挨拶して新吉は、其の癖やはり内心いくらか憂鬱を曳きながら部屋を出た。