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パリさい

巴里祭

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《巴里祭(パリさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,324 字 · 60 頁

青空文庫

それに雨の雫の集りも加わって往来にしゃら/\川瀬の音を立てゝいた。ベッシェール夫人は後褄を小意気に摘み上げ、拡げた傘で調子を取り、二人から斜めに先に立って歩いて行った。立籠めた泥水の臭いとニンニクの臭いとを彼女の派手な姿がいくらか追い散らした。此の垢でもろけた家並の中に、まるで金の入歯をしたようにバル・デ・トロア・コロンヌだとか、バル・デ・ファミイユだとか、メイゾン・バルとか言うような踊り場が挟まっていた。ニスで赧黒く光った店構えに厚化粧でもしたような花模様が入口のまわりを飾っていた。毒々しいネオンサインをくねらせた飾窓の硝子には白墨で「踊り無料」と斜に走り書きがしてあった。之れは巴里祭の期間中これ等の踊り場がする、お得意様への奉仕であった。其の代りに彼等は酒で儲けた。どの踊り場の前にも吐き出す、乱曲を浴びながら肩を怒らしてズボンへ両手を突込んだ若者と、安もので突飛に着飾った娘達とが、ごちゃ/\していた。

よく見ると彼等はふざけ合ったり、いじめ合ったり、どこへ行こうか迷ったりしている。斯んな場所に不似合な程、見優りのするベッシェール夫人がその踊り場の一つのブウスカ・バルへ傘をつぼめてつか/\と入って行くと彼等は話声を止めて振返った。