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パリさい
巴里祭
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《巴里祭(パリさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,324 字 · 60 頁
こゝろに白けた以上に白け切って眼の裏のまぼろしに、不思議と魚の浮嚢、餅の青黴、葉裏に一ぱい生みつけた小虫の卵、というようなものが代る/\ちらちら見え出して、身慄いが細い螺旋形の針金にでもつき刺されるように肩から首筋を刺した。彼は首を仰向けにして、ぼんの窪で苦痛を押えていると悲しい涙が眼頭から瞼へあふれずにひそかに鼻の洞へ伝って行った。「我が世も終れり。」というような感慨じみた嘆声がわずかに吐息と一緒に唇を割って出ると今度は眼の裏のまぼろしに綺麗な水に濡れた自然の手洗石が見え南天の細かい葉影を浴びて沈丁花が咲いて居る。日本の静かな朝。自分の家の小庭の手洗鉢の水流しのたゝきに五六条の白髪を落して、おさな顔のおみちが身じまいをしている姿が見える。おみちばかりか自分も老の時期が来たのか。今宵かぎり潔よく青春を葬ろうか。
新吉が幻覚の中をさまよっているのにも頓着なくジャネットは、しきりに元気で未熟な踊りの調子で新吉を追い廻していた。新吉がやっと気がついて、その調子に合せようとすると、案外狡く調子を静め、それからステップの合間/\に老成せたさゝやきを新吉の耳に聞かせ始めた。