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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁

青空文庫

いやでもあうぞ」

「はい」

「その旅で一度会うたことのある人間を、いま、この江戸で、さがし出したいと思うのだ。むりかな」

「あら、いえ。ちっともごむりなことはございますまい」

「まあ、聞きたまえ。ひとつ、聞かせてやろう。剣を弾じて、うたうのだ」

六

馮驩その剣を弾じてうたう。と、口ずさみながら、龍造寺主計は、うしろざまに手をのばして、まくらにしていた長刀を、とりあげた。お高が、ぎょっとしているうちに、すうと抜いた。お高は、あっと小さく叫んで、思わず膝を上げようとした。

そのとき、龍造寺主計の歌声がしていた。それは、詩吟のようでもあり、長歌のようでもあり、俗謡のようでもあった。おそらく、彼自身の独特の調なのであろう。不可思議な節まわしで、はじめは低く、お高があっけにとられているうちに、だんだん高くなっていった。

「今日、鬢糸、禅榻畔、茶煙軽、落花の風――」

それは、杜牧の詩であった。朗々たる声だ。その朗々たる声で、うたいながら龍造寺主計は、奇妙な楽を奏しているのであった。彼は、琵琶師が琵琶を弾ずるときのように、長剣を、きっさきを上に、膝のうえに斜めにかまえて、声を合わせて、左手の爪で刀刃をはじくのである。