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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁

青空文庫

と、磯五は、あらためてお高のほうへ、「お前はどうだ。お前もわたしの話がわかってくれたろうな」

「知りませぬ」

きっぱりいい放って、お高は、高いところへ上がったように、眼がくらむ感じがした。若松屋惣七には、お高は、三年ぶりに別れていた良人に会っても、何の感情もないもののように感じられた。憎しみも恨みもないようすなのだ。磯五に対する限り、お高のこころは死灰のようになっているのであろうか。

それも、むりはない。出て行けがしにしたあげく、有り金をさらって逐電した良人である。こうして再び顔が合ったところでふたりのあいだは、他人以上につめたいのかもしれない――若松屋惣七は、いろいろに考えた。

一枚の証文のうえに、惣七と磯五と、二つの手が重なったまんまだ。

惣七は、ほのあたたかい磯五の手を感じた。白い、やわらかな手だ。はげしい労働や武術を知らない手だが、これは弱いようで、強い手である。一つの目的を達するためには、すべてを犠牲にするだけの熱をもっているのだ。水のように弱い。しかし、やどり木のように強い。宿り木は、執拗にまつわりついて、ときとして、大木の精分を吸いとって枯らすことさえあるのである。