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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁

青空文庫

裾をまくって頭からかぶった御免安、達磨に足が生えたような恰好で、野田屋の店をとび出した。

同時に、守人もたった。

おっ取り刀である。

「老爺、今の男は定連か」

「いえ、初めてのお顔でございます」

「よし!」

うなずくが早いか、ばらりとそこへ小銭をつかみ出して、物をもいわず守人は外へ出た。

さっきの人数を呼び返す気であろう。暗黒をのぞきながら、安兵衛が駈けて行く。

「おのれっ! 見んでもいい物を見おって――いらぬ筋へ忠義立てする気だな。ひょっとすると不浄の小者であろうも知れぬ」

ぷつり、帰雁の鯉口をひろげて、ぴしゃぴしゃ――守人は飛泥を上げて追いすがる。

雨脚が太くなった。

犬もあるけば棒にあたる

守人はあきらめた。

泥濘をとび越えて走って行く御免安兵衛の姿は、鳥羽絵の奴のような恰好に、両側の家をもれる灯のなかにおどったり消えたりして、見るみるうちに小さくなる。

やがて、浅茅原の闇黒にのまれてしまった。

あとには、夜の春雨が霏々としてむせび泣いて、九刻であろう、雲の低い空に、鐘の音が吸われていった。

ふと気がつくと、帰雁の柄へかけた右手の甲に、夜目にも白い雨滴が流れて、さっきの騒ぎに傘を切られた篁守人、頭からびしょぬれになって橋場の通り銭形のまえに立っている。