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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁

青空文庫

「お耳打ちをお許しくださいますよう」

「おお誰もおらん、そこでいえ」

「なれど、念には念を、とか申しまするで」

「さようか、では苦しゅうない。近う」

一世一代の勇気を出した邦之助、手を膝がしらに、腰をかがめて大まわりにまわって直弼の耳もと近くかしこまった。

咽喉仏をがくがくさせて何かささやいている、細かくからだを振りながら聞いている平べったい彦根殿の顔が、見るみる驚愕にゆがんだ。

「うむ、うむ――なに? そうか。ううむ、そち、それは真実だろうな」

「まずこのねらいははずれますまいと存じます」

「ふうむ。彼奴か。あの男なら識っとる。それくらいのことはいかさまやりかねんやつじゃて」

「時に御前」

また邦之助の口が直弼の耳へ寄ると、しばらくして、

「うむそのことか」と聞いていた直さんが笑い出した。

「はっはっは、それなら先夜も志賀の金八が参って申しおったし、殿中においてもたびたびそれとなく忠告を受けおるが、直弼の眼中一身なしじゃ。かれら痩浪士に何ができようぞ。あはははははは」

けれども、そのうちに邦之助がまたもや何事か耳へ吹き込むと、今度は、

「うむ」

といったきり――すると赤鬼といわれたその赫ら顔が一時に蒼ざめて大老掃部、畳をけるように突っ立った。