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ねんまつのいちにち

年末の一日

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《年末の一日(ねんまつのいちにち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,979 字 · 7 頁

青空文庫

K君のお墓と言ったのは夏目先生のお墓だった。僕はもう半年ほど前に先生の愛読者のK君にお墓を教える約束をしていた。年の暮にお墓参りをする、――それは僕の心もちに必ずしもぴったりしないものではなかった。

「じゃお墓へ行きましょう。」

僕は早速外套をひっかけ、K君と一しょに家を出ることにした。

天気は寒いなりに晴れ上っていた。狭苦しい動坂の往来もふだんよりは人あしが多いらしかった。門に立てる松や竹も田端青年団詰め所とか言う板葺きの小屋の側に寄せかけてあった。僕はこう言う町を見た時、幾分か僕の少年時代に抱いた師走の心もちのよみ返るのを感じた。

僕等は少時待った後、護国寺前行の電車に乗った。電車は割り合いにこまなかった。K君は外套の襟を立てたまま、この頃先生の短尺を一枚やっと手に入れた話などをしていた。

すると富士前を通り越した頃、電車の中ほどの電球が一つ、偶然抜け落ちてこなごなになった。そこには顔も身なりも悪い二十四五の女が一人、片手に大きい包を持ち、片手に吊り革につかまっていた。電球は床へ落ちる途端に彼女の前髪をかすめたらしかった。彼女は妙な顔をしたなり、電車中の人々を眺めまわした。