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ねんまつのいちにち

年末の一日

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《年末の一日(ねんまつのいちにち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,979 字 · 7 頁

青空文庫

しかし僕はどう考えても、今更恬然とK君と一しょにお時宜をする勇気は出悪かった。

「もう何年になりますかね?」

「丁度九年になる訣です。」

僕等はそんな話をしながら、護国寺前の終点へ引き返して行った。

僕はK君と一しょに電車に乗り、僕だけ一人富士前で下りた。それから東洋文庫にいる或友だちを尋ねた後、日の暮に動坂へ帰り着いた。

動坂の往来は時刻がらだけに前よりも一層混雑していた。が、庚申堂を通り過ぎると、人通りもだんだん減りはじめた。僕は受け身になりきったまま、爪先ばかり見るように風立った路を歩いて行った。

すると墓地裏の八幡坂の下に箱車を引いた男が一人、楫棒に手をかけて休んでいた。箱車はちょっと眺めた所、肉屋の車に近いものだった。が、側へ寄って見ると、横に広いあと口に東京胞衣会社と書いたものだった。僕は後から声をかけた後、ぐんぐんその車を押してやった。それは多少押してやるのに穢い気もしたのに違いなかった。しかし力を出すだけでも助かる気もしたのに違いなかった。

北風は長い坂の上から時々まっ直に吹き下ろして来た。墓地の樹木もその度にさあっと葉の落ちた梢を鳴らした。