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まぼろしのその

幻の園

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《幻の園(まぼろしのその)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,788 字 · 14 頁

青空文庫

梅の実が大小さまざまに沢山なりました。梨の実が一日一日と大きくなっていきました。桃や枇杷が熟しました。柿が房をなして色づきました。蜜柑や金柑が至るところに微笑んでいました。椋や榎の実を食べに小鳥が群れてきました。

それらのものの下で、私は祖母と遊びました。四季折々の草花も育てました。鶏や山羊や鳩にも餌をやりました。池に玩具の舟を浮べました。墓地一面の金色の苔の上から、落葉を拾いました。

墓地の隅に、碑銘も何もない小さな円い石が一つ立っていました。

「あなたの兄さんのお墓ですよ。生れてじきに亡くなりましたが……。」

祖母はそう何度かくり返して云いました。その児が生きていたら……という思いが自然と口に出るのだったでしょう。

けれど私は、生れてじきに亡くなったその兄のことよりも、もっとほかの同胞のことに気を惹かれていました。同胞……兄か弟か姉か妹かそんなことは分りませんが、何だか私にはまだ同胞があって、それがどこかで丈夫に元気に生きている……という気がしたのです。いつそんな考えが起ったのか分りませんが、しまいにそれは殆んど確信に近いものとなっていました。