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ひかげのまち

幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選

松本 泰

線上閱讀松本 泰《幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選(ひかげのまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,797 字 · 107 頁

青空文庫

という看札を掲げた酒場があった。私は毎日のように斯うしてモニカを捜し歩いているのである。そしてとうとう「世の終り」まで来てしまったと思って、苦笑しながら、疲労れた足を引擦って中へ入っていった。

私は肥満った亭主から受取った麦酒のコップをもって、隅の椅子に就くと、不意に肩を句いたものがあった。それはグレー街の附近でよく見掛けた、乞食の爺さんであったが、職業にでも就いたと見えて、ちゃんとした服装をしていた。

「お前さんは、籤を引き損こなったね」老人は私の傍へ腰を下した。

「何の籤です」私は老人の海の底のような、紫色の瞳を視つめながら問返した。

「運命の籤さ。あの日お前さんが時間に遅れた計りに、皆の嫌っていたルグナンシェがお前さんの代りに汽船へ乗ってしまった」

「皆というのは誰です」

「ガスケル老人と、モニカ嬢さ」

「ええ? モニカ? ハハハ……」私は声を挙げて笑った。失望して泣く訳にもゆかない。驚くのも間が抜けている。けれども私の胸には驚愕と失望と、悲哀とが錯綜していた。私の哄笑は、それ等の気持を憫む笑であった。

老人は低声で語った。

「ガスケルさんとモニカ嬢が、急に米国行を思立ったのはルグナンシェから遁れる為であった。