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ひかげのまち

幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選

松本 泰

線上閱讀松本 泰《幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選(ひかげのまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,797 字 · 107 頁

青空文庫

そして一二年前から、公園に近いベースウオーター街に、現在の家を買って、何をするともなく日を暮している。

それだけでも既に不可解であるのに、此数日は食事の時間も不在勝で、何時家を出て、いつの間に帰って来るのか、それさえ判らなかった。坂口はたった一人の伯父の、そうした孤独な振舞を考えていると、一層沈んだ心持になってくるのであった。

快い夜風が彼の頬を吹いていった。

足は自然にクロムウェル街に向う。其処には伯父の旧い友達でエリス・コックスという婦人の家があった。伯父はエリスがチルブリー船渠に遠からぬチャタムに住んでいた頃からの友達であった。

エリスの良人は珍らしい日本人贔負であった。凡そ日本の汽船でテームス川を溯ったほどの船員は、誰一人としてコックス家を知らぬものはなかった。永い単調な航海の後で、初めて淋しい異郷の土を踏んだとき、門戸を開放し、両手を拡げて歓び迎えてくれるコックス家を、彼等はどんなに感謝したことであろう。

彼等はよく招かれてコックス家の客となった。船員仲間はそこを「水夫の家」と呼んでいた。

それは二昔も以前の事である。ある年「水夫の家」