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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
線上閱讀松本 泰《幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選(ひかげのまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,797 字 · 107 頁
のみならず他人とは交渉を持たない伯父の生活に、秘密のありよう筈はなかった。
坂口は二階の暗い寝床の中で、まじまじと伯父の身の上を案じていた。
燈火を消した室内に、戸外の街燈の光が、ぼんやりと射込んでいる。夜が次第に更けていった、坂口の疲労れた眼瞼に、フト伯父の顔が映った。続いて品の好いエリスの姿が浮んだ。と思うと急に伯父が二十年も若返ってデップリ肥満った体躯を船長の制服に包んで、快活らしく腕組をしている姿になった。それと共に、船着場に近い穏かな街の景色が見えた。それはまるで坂口の知らない光景であった。青々と伸びた楊柳の葉がくれに、白く塗った洋館が見えてきた。仏蘭西窓に凭りかかって、豊頬に微笑を浮べながら、遠くの澄んだ空を見上げているのはエリスであった。そのうちに伯父の顔はいつか、坂口自身になり、エリスの顔は緑色のブラウスを着た甲斐甲斐しいビアトレスの姿になった。
坂口は軈て華胥の国に落ちて了った。
翌朝彼が目を醒したのは、九時を過ぎていた。麗かな太陽の光が、枕元のガラス窓を訪ずれていた。薔薇の咲く裏の芝生に青い鳥が来て、長閑な春の歌を唄っていた。