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ゆうれいのいしょう
幽霊の衣裳
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《幽霊の衣裳(ゆうれいのいしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,057 字 · 3 頁
気の強い蔦芳は、いきなり足で其の男を蹴っておいて二階へあがり、俳優のお仕着の浴衣を執って来たが、おりる時にはもう其の男は見えなかった。
それから五六日して蔦芳は、亦彼の壮い男が便所の口に立っているのを見たので、其の日中村座へ往って其の事を話した。
小屋の者はそれを菊五郎に話した。幽霊の衣裳を考案していた菊五郎は、早速蔦芳を自宅へ呼んで、今度出たら着附を良く見ておいて知らしてくれ、骨折賃を二両出そうと云った。其の時の二両は可成な金であるから、蔦芳は喜んで幽霊の出現を待っていた。
すると中村座の初日の二日前の夜、其の幽霊が蔦芳の臥ている部屋へぬうと現れた。蔦芳はしめたと思って能く見た。二十四五の壮い男で、衣服は浅黄木綿の三つ柏の単衣であった。蔦芳は夜の明けるのを待ちかねて、菊五郎の許へ駆けつけた。菊五郎はそこで小平の衣裳を浅黄木綿石持の着附にして、其の演戯に出たので好評を博した。
蔦芳の見た幽霊は、蔦芳が後で調べてみると、其処の女郎屋の壮佼であった。其の壮佼の徳蔵と云うのは、病気の親に送る金に困って客の金を一歩盗んだ。因業者で通っていた主翁は、それを突き出したので徳蔵は牢屋に入れられ、其のうちに病死したが、其の徳蔵が曳かれて往く時着ていた衣服は、店の妓がやった浅黄木綿三つ柏の単衣であった。