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かげのないはんにん

影のない犯人

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《影のない犯人(かげのないはんにん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,032 字 · 23 頁

青空文庫

「しかし、ねえ。前山一作氏の目の黒いうちはコンリンザイ別荘を貸してくれないからね。早く死んでくれねえかなア。すると、ほかに余得もあるからな。花子夫人はまさに絶世の美人だからね。ヘッヘ。両先生、変な顔をしますねえ。知ッてるよう、君。彼女に惚れてるのはオレ一人じゃないからね。両先生の老いたる胸に熔岩がドロドロと燃えただれているね。ツラツラ観じ来たれば医者の先生も、剣術の先生も、実に悲しき人間ですよ。しかも、オレよりも貧乏にやつれ、金につかれ、女につかれているのだからね。年ガイもなくさ。医者の先生が前山氏に一服もり、剣術の先生が夜中に前山氏を一刀両断にしても、オレは憎めないよ。むしろ、その人を愛するな」

聞き手が両先生だけならよかったのだが、その席に前山一作氏の長男光一というヤクザな青年がいたのである。光一は花子さんの子供ではない。花子さんは後妻だ。まだ二十八である。光一のたった三ツ年長である。

光一はカリエスでギプスをはめているくせに、拳闘のグローブを買ってきて立廻りの稽古にうちこんだり、にわかに思いたって、絵やフランス語の勉強をはじめる等々全然シリメツレツの青年であった。