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いようへん
影を踏まれた女
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《影を踏まれた女(いようへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,110 字 · 46 頁
そう判ってみると、職人たちも少し気味が悪くなった。しかし梶井の父というのはいわゆる文明開化の人であったから、ただ一笑に付したばかりで、その書き物も黒髪もそこらに燃えている焚火のなかへ投げ込ませようとしたのを、細君は女だけにまず遮った。それから社を取りくずすと、縁の下には一匹の灰色の蛇がわだかまっていて、人々はあれあれといううちに、たちまち藪のなかへ姿をかくしてしまった。
蛇はそれぎり行くえ不明になったが、かの書きものと黒髪は残っている。梶井の母はそれを自分の寺へ送って、回向をした上で墓地の隅に葬ってもらうことにしたいと言っていた。梶井が僕をよびに来たのは、それを見せたいためであることが判った。一種の好奇心が手伝って、僕もその黒髪と書きものとを一応見せでもらったが、その当時の僕には唯こんなものかと思ったばかりで、格別になんという考えも浮かばなかった。亡魂が祟りをなすなどは、もちろん信じられなかった。僕は梶井の父以上に文明開化の少年であった。
書きものに「後の月見の夜」とあるから、おそらく九月十三夜の月見の宴でも開いている時、おたまという妾が家来のなにがしと密会しているのを主人に発見されて、その場で成敗されたのであろう。