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いようへん

影を踏まれた女

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《影を踏まれた女(いようへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,110 字 · 46 頁

青空文庫

」

こんな話を聞かされて、女房もいよいよ怖くなったが、まさかに、ここの家に泊めてもらうわけにもいかないので、亭主にはあつく礼をいって、怖々ながらここを出た。家へ帰り着くまでに再び火の玉にも盆燈籠にも出逢わなかったが、かれの着物は冷汗でしぼるようにぬれていた。

それから二、三日後に、亀田屋の女房はここを通って、このあいだの礼ながらに煙草屋の店へ立寄ると、亭主は小声で言った。

「まったく相違ありません。隣りの家の切子は、石でも当ったように破れていて、誰がこんないたずらをしたんだろうと、おかみさんが言っていたそうです。お貞さんには別に変ったこともないようで、さっきまで店に出ていました。なにしろ不思議なこともあるもんですよ。」

「不思議ですねえ。」と、女房もただ溜息をつくばかりであった。

この奇怪な物語はこれぎりで、お貞という娘はその後どうしたか、それは何にも伝わっていない。

二 寺町の竹藪

これはある老女の昔話である。

老女は名をおなおさんといって、浅草の田島町に住んでいた。そのころの田島町は俗に北寺町と呼ばれていたほどで、浅草の観音堂と隣り続きでありながら、すこぶるさびしい寺門前の町であった。