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かげをふまれたおんな
影を踏まれた女
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《影を踏まれた女(かげをふまれたおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 頁
「おせきにも困ったものですね。」と、その事情を知っている母は、ときどきに顔をしかめて夫にささやくこともあった。
「まったく困った奴だ。」
弥助も溜め息をつくばかりで、どうにも仕様がなかった。
「やっぱり一つの病気ですね。」と、お由は言った。
「まあそうだな。」
それが大野屋の人々にもきこえて、伯母夫婦も心配した。とりわけて要次郎は気を痛めた。ことに二度目のときには自分が一緒に連れ立っていただけに、彼は一種の責任があるようにも感じられた。
「おまえがそばに付いていながら、なぜ早くその犬を追ってしまわないのだねえ。」と、要次郎は自分の母からも叱られた。
おせきが初めて自分の影を踏まれたのは九月の十三夜である。それからもう半年以上を過ぎて、おせきは十八、要次郎は二十歳の春を迎えている。前々からの約束で、ことしはもう婿入りの相談をきめることになっているのであるが、肝腎の婿取り娘が半気ちがいのような、半病人のような形になっているので、それもまずそのままになっているのを、おせきの親たちは勿論、伯母夫婦もしきりに心配していたのであるが、ただ一と通りの意見や説諭ぐらいでは、どうしてもおせきの病をなおすことは出来なかった。