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ただなおきょうぎょうじょうき

忠直卿行状記

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《忠直卿行状記(ただなおきょうぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,602 字 · 47 頁

青空文庫

二人はいい合わしたように、足早く大広間の方へと去ってしまった。

忠直卿の瞳は、怒りに燃えていた。が、その頬は凄まじいまでに蒼ざめている。

彼の少年時代からの感情生活は、右近の一言によって、物の見事に破産してしまっていた。彼が幼にして、遊戯をすれば近習の誰よりも巧みであったことや、破魔弓の的を競えば近習の何人よりも命中矢を出したことや、習字の稽古の筆を取れば、祐筆の老人が膝頭を叩いて彼の手跡を賞賛したことなどが、皆不快な記憶として彼の頭に一時に蘇って来た。

武術の方面においても、そうであった。剣を取っても、槍を取っても、たちまち相手をする若武士に打ち勝つほどの腕に瞬く間に上達した。彼は今まで自分を信じて来た。自分の実力を飽くまで信じて来た。今右近らの冒涜な陰口を耳にしても、それが彼らの負け惜しみであるとさえ、ともすれば思うほどである。

しかし、今日の右近の言葉は、その言葉が発せられた時と場合とを考えれば、決して冗談でもなければ嘘でもなかった。

自信にみちていた忠直卿の耳にも、正真の事実として聞えぬわけには行かなかった。

右近の言葉は、彼の耳朶のうちに彫り付けられたように残っている。