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おもいでぐさ
思い出草
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《思い出草(おもいでぐさ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,303 字 · 11 頁
六 獅子舞
獅子というものも甚だ衰えた。今日でも来るには来るが、いわゆる一文獅子というものばかりで、本当の獅子舞は殆ど跡を断った。明治二十年頃までは随分立派な獅子舞が来た。先ず一行数人、笛を吹く者、太皷を打つ者、鉦を叩く者、これに獅子舞が二人もしくは三人附添っている。獅子を舞わすばかりでなく、必ず仮面を被って踊ったもので、中には頗る巧みに踊るのがあった。彼らは門口で踊るのみか、屋敷内へも呼び入れられて、色々の芸を演じた。球を投げて獅子の玉取などを演ずるのは、よほど至難い芸だとか聞いていた。
元園町には竹内さんという宮内省の侍医が住んでいて、新年には必ずこの獅子舞を呼び入れて色々の芸を演じさせ、この日に限って近所の小児を邸へ入れて見物させる。竹内さんに獅子が来たというと、小児は雑煮の箸を投り出して皆な駈け出したものであった。その邸は二十七、八年頃に取毀されて、その跡に数軒の家が建てられた。私が現在住んでいるのはその一部である。元園町は年ごとに栄えてゆくと同時に、獅子を呼んで小児に見せてやろうなどという悠暢した人はだんだんに亡びてしまった。