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しあんのはいぼく

思案の敗北

太宰 治

線上閱讀太宰 治《思案の敗北(しあんのはいぼく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,541 字 · 6 頁

青空文庫

私は、恥ずかしく思う。私の愛情の貧しさを恥ずかしく思うのである。おのれの愛への自惚れを恥ずかしく思うのである。その友人は、その御両親にさえ、一ことも、言わなかった。私でさえこんなに恥ずかしいのだから、御両親の恥ずかしさは、くるしさは、どんなであろう。

権威を以て命ずる。死ぬるばかり苦しき時には、汝の母に語れ。十たび語れ。千たび語れ。

千たび語りても、なお、母は巌の如く不動ならば、――ばかばかしい、そんなことないよ、何をそんなに気張っているのだ、親子は仲良くしなくちゃいけない、あたりまえの話じゃないか。人の力の限度を知れ。おのれの力の限度を語れ。

私は、いま、多少、君をごまかしている。他なし、君を死なせたくないからだ。君、たのむ、死んではならぬ。自ら称して、盲目的愛情。君が死ねば、君の空席が、いつまでも私の傍に在るだろう。君が生前、腰かけたままにやわらかく窪みを持ったクッションが、いつまでも、私の傍に残るだろう。この人影のない冷い椅子は、永遠に、君の椅子として、空席のままに存続する。神も、また、この空席をふさいで呉れることができないのである。ああ、私の愛情は、私の盲目的な虫けらの愛情は、なんということだ、そっくり我執の形である。