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みっつのあざ

怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集

小酒井 不木

線上閱讀小酒井 不木《怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集(みっつのあざ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 頁

青空文庫

二階へあがって弘の部屋へはいっても、部屋へはいったということが知れてはならなかったからである。弘には妙な癖があって、彼女がたまたま留守中に部屋へはいると、あとで弘は、襖の閾に線を引いて置いたが、それがちがった位置になって居るとか、硯箱について居た指紋が僕のとちがうとか、蜘蛛の巣が破れて居るとか、書物の置き方が乱れて居るとかいっては、由紀子をなじるのであった。

「あなたのお部屋にはどんな秘密があるの」

ある時由紀子がたずねると、

「なに、秘密なんかあるもんですか。ただ、あの部屋は僕のオアシスです。それに塵っぽいから姉さんの呼吸器に毒です」

と、弘は答えるだけであった。

こうした訳で、久しく由紀子は弘の部屋を訪れなかったが、折角治りかけたビリーの薬が遅れても困るので、思い切って階段をあがると、彼女は八畳の隣りの弘の部屋の襖を何の躊躇もなくすうとあけた。

「まあ、きたないこと!」

由紀子は思わず顔をしかめた。部屋の中は足を踏み立てるひまもないほど乱れて居た。机と火鉢と座蒲団が一所にかたまって、其の周囲には、書籍だの新聞だの雑誌だの、紙屑だのが、無茶苦茶に放り出してあった。