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かいいにきらわる

怪異に嫌わる

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《怪異に嫌わる(かいいにきらわる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,560 字 · 10 頁

青空文庫

殊に近代の空気に多少ともふれた、そして大まかな人は、それらの曰く付きとか言い伝えとかを、表面ではわざと軽蔑した風を装い、内心では倦き倦きしているのだ。ところが、それらの無視された昔の息吹きが、時あって、勢強く立上ることがないものだろうか。立上って復讐することがないものだろうか。あるとすれば、それが特殊な事件や一家の盛衰興廃などにからまると、風味ある小説になるだろうよ。

坪井君は当時、田舎の小さな町に暮していた。然るに、真夜中、丑三つの頃というのであろうか、顔色を変え息をつめて、がばとはね起きた。薄紗をかぶせた電灯の朧ろな明るみのなかで、茫然と見開いた眼には、明瞭な幻がまだ映っている。すらりとした白衣の女人が、血の気のない真白な顔をして、室の前の廊下を、滑るように、行きつ戻りつしている。その姿が、障子越しに、はっきりと見える。じっと眼をつけていると、それが障子を越し、すーっと迫ってきて、とたんに、眼が眩んだのだった。我に返りはね起きて、その幻が眼底から消えると、冷い戦慄が背筋に流れた。

それに類した幻を、坪井君は、三晩続けて見た。第二夜には、白衣の女人は室の外を、壁や障子の外を、ぐるぐる歩き廻っていたが、やがてそれが室の中となり、圏が次第に縮小して、坪井君の身体とすれすれになり、そこで坪井君ははね起きた。